2022年08月05日

「人とのつながりを大切に」アーケードゲームプロデューサーの仕事とは

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※所属は取材当時のものです。

アーケードゲーム事業部 プロデュース1課

正路 千暁KAZUAKI SHOJI

【プロフィール】

2004年にナムコ(のちのバンダイナムコアミューズメント)に入社、新大阪クリエイティブセンターで家庭用ゲームの企画を担当。2007年にバンダイナムコゲームス(のちのバンダイナムコエンターテインメント)アミューズメント事業部への異動をきっかけにアーケードゲームに関わる。2012年からバンダイナムコスタジオに移り、引き続きアーケードゲームのプロデュースに携わる。2017年からバンダイナムコアミューズメント所属。

家庭用ゲームの企画からキャリアをスタートし、異動をきっかけにアーケードゲームへとフィールドを移したあと、現在にいたるまでプロデューサーとして「ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー」「機動戦士ガンダム 戦場の絆Ⅱ」等のヒットタイトルに関わってきた正路さん。前編では、プロデューサーの多岐にわたる業務について伺いました。

※内容は、2022年7月の取材をもとに構成されています。

アーケードゲームのプロデューサーとしての業務内容を教えてください。

大まかにいうと、企画をプレゼンして予算をとり、開発し、収益を上げるというのが一連の業務の流れです。特に、プロジェクトのスタート地点であるプレゼンと、稼働以降の収益確保が、プロデューサーとして手腕を問われるところです。
プレゼンに関していうと、当社の場合、IP※を用いた製品を多く手がけているため、版元様にご提案する機会が多くあります。企画の面白さはもちろんのこと、この方法であれば問題なく利益が得られるという根拠を示さなければいけません。未来のことなので、100%予測通りという保証はありませんが、過去の類似事例のデータをもとに計画を立てることで、信頼いただけるよう努めています。
IPは、版元様にとって大切に守るべき存在ですから、初回のプレゼンから全面的に賛同いただけることはほとんどなく、それが当然のことです。また世界観やキャラクターのイメージを変えないよう、、すり合わせは何度も粘り強く行います。最終的には、企画への熱意と、根拠ある自信が実を結ぶと思います。

プレゼンが通ると開発がスタートします。1タイトルあたり、最低でも2年半の開発期間が必要で、「ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー」は約3年を要しています。
チームの人数はタイトルによって変わりますが、比較的予算の少ない小規模開発においては10~15名ほど。背景やキャラクターなどのグラフィックを制作するグラフィッカーは、担当している作業が完了すれば離脱して別プロジェクトに移動するので、人数や顔ぶれは流動的でもあります。また、中途入社のメンバーもたくさんいますが、とてもフラットな関係です。中途入社の社員もプロパー社員も、協力してプロジェクトを進めていきます。

タイトルがいよいよ稼働し、盛り上げていくためには、プレイヤーのコミュニティを育てることが重要です。といっても、ファンミーティングの場を設けるだけでは活発な交流は難しいので、参加者の母数を上げるためにも、全国各地のイベントに、自分も積極的に出演しています。プレイヤー同士のコミュニケーションが最大の目的なので、私自身がお一人ずつとじっくりお話しする時間はなかなか設けられませんが「プロデューサーと直接話してみたかった」と声をかけていただくこともあります。プレイヤーの皆さんのご意見は、制作側にとっての財産なので、とても嬉しく、ありがたいですね。

※IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のことを指します。

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さまざまな役割のメンバーと仕事を進めていくうえで、気をつけていることはありますか。

誰とどんな仕事をするにしても、根本的に、円滑な人間関係が重要だと思っています。
わかりやすく予算という側面でいえば、ゲームソフトの開発にかかる金額は、人件費が多くを占めています。限られた期間と人員のなかで最大限の成果を生み出すには、ものづくりへのモチベーションが絶対に必要です。関係性の構築がうまくいかないと思い通りに進行しないばかりか、製品自体も良いものに仕上がりません。
たとえばディレクターとのやりとりは、本人の特性に沿ったコミュニケーションを意識しています。ディレクターは、チームを指揮する“映画監督”のような存在です。メンバーそれぞれの能力を生かして開発を進め、IPの魅力を最大限引き出した作品をつくらなければなりません。本人の作家性が強ければ、オリジナリティあるアイデアをもらえるよう、プロデューサーが意見するのは最低限にします。逆に、話し合いながら形作っていくタイプであれば、定期ミーティングを設けて積極的に議論します。
私もディレクターの経験があり、自分のやりたいことを思うように発信できない現場は、少し窮屈に感じたことがあります。
プロデューサーとしてどうしても軌道修正したい点があれば正直に伝えますが、相手の“自分らしさ”を発揮できるように気を配ることが、この仕事のポイントだと思います。

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プロデューサーの視点で見た場合、家庭用ゲームとアーケードゲームとの違いはありますか。

私は家庭用ゲームの開発から入りましたが、特に違いは感じませんでした。
最初に家庭用ゲームの立ち上げに携わった際は、自分なりに勉強したり、商品開発の外部研修に通ったりしました。企画の持ち込みをしていたつながりでバンダイナムコゲームスのアミューズメント事業部に転籍になったのですが、そこで初めて「機動戦士ガンダム 戦場の絆Ⅱ」の前身「機動戦士ガンダム 戦場の絆」を担当しました。入力デバイスや筐体はもちろん家庭用と異なるものの、アーケードゲームは“コントローラーが特殊なソフト”くらいの感覚で、スムーズに移行できました。おそらく、ゲーム業界全体を俯瞰してみても、作り手が両者の垣根を意識する場面は少ないのではないでしょうか。

ゲームセンターをはじめとするリアルエンターテインメントだからこそ、お客様にご提供できる価値とは何でしょうか。

リアルエンターテインメントの一番の価値は、人とのつながりが生まれることだと考えています。
SNSが当たり前の世界ですが、言葉のニュアンスや表情が見えないゆえに誤解を生んで“炎上”してしまう事例があります。一方、ゲームセンターというリアルな場所で、相手が隣にいるとしたら、意見の食い違いがあっても、言葉を咀嚼する余裕ができると思うんです。それがつまり人とのつながり、コミュニケーションです。顔を知ったうえで安心して関係を築けることが、ゲームセンターの特性かもしれないですね。

→ 後編は自身のキャリアについて伺いました。

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