第13回2009.3.11
♪ 押忍! 押忍! 押忍!
♪ 押忍! 押忍! 押忍! 押忍!
……私の名はジュリア・アービング。
敏腕ネゴシエーターである私のケータイには、今日もまた仕事依頼の着信が入るのだが……。
♪ 押忍! 押忍! 押忍!
♪ 押忍! 押忍! 押忍! 押忍!
……この、男濃度150%な着メロは、『マキサンDX開発チーム』のメンバー、"1秒間に10回スピンターン"のナガマツに違いない。
どんな些細な事にでも己のコダワリを貫き通す彼は、知り合いのケータイの着メロにも指定を出すナイスガイだ。
UZEEEE。
♪ ピッ
もしもし?
「押忍! ナガマツっす! では夜露市苦っす!!!」
♪ ピッ
ちょー待てや! 何が言いたいんだキサマ!?
♪ 押ッ忍! 押ッ忍! 押ッ忍!
♪ 押ッ忍! 押ッ忍! 押ッ忍! 押ッ忍!
……あ、メールが来た。
『押忍!
ストーリーモードのスタート前と中間の演出部分を"フクスケ"ってヤツに作らせてるんだけど、この俺ナガマツが用意したスーパーエクセレントな
"ナガマツールDX"を使ってるにも関わらず、どーも演出作業が遅れてるっぽいから、ちょっとばかし様子を見てきて欲しいんだゼ! 押忍!
ギャラはウチダディ宛に請求書を送って欲しいんだゼ! 押忍!
おっと、大事な事を言い忘れていたんだゼ! 押忍!
この間、この俺ナガマツは1秒間に11回のスピンターンに挑戦し
(以下略)』
……私は、ギャラを払ってくれるなら、どんな下らない仕事でも断らない主義。
……そして、クライアントの人となりも気にしないようにしている。なるべく。
ウチダディには水増しした請求書を送る事を密かに決めた私は、イヤが応にも通い慣れてきてしまった未来研究所へ歩みを進めた。
それにしても、まーたフクスケの業務進捗の調査かあ。
マキサンDX開発チームは色々な仕事を依頼してくれるお得意様ではあるけど、どーせなら「フクスケ以上の人材をスカウトしてきて」って依頼すれば良いのにねー。
それならすっごい楽な仕事なんだけど。
さてと、フクスケは……居た居た。
地味で冴えないヤツだけに、精鋭揃いと言われるこの会社では逆に目立つんだよな。
ジュリア:
押忍!
フクスケ:
どひっ!? ナナナナナナガマツさんっ!?
スミマセン スミマセン スミマセン スミマセン スミマセンっ!!
……あ、なんだ、ジュリアさんじゃないですかー……。
ビックリさせないでくださいよー(泣
ジュリア:
(うわっ マジで涙ぐんでやんの。きもー)
押忍! フクスケ君、ちゃんと仕事やってるかね!?
……これは、家庭用ゲーム機のコントローラー……。
なるほど、「勤務中にも関わらず、ゲームで遊んでいた」と……。
フクスケ:
なーーーっ!?
ちちち違いますて!
これも仕事なんですて!!
ストーリーモード用の、"リアルタイム・ムービー"を作ってるんですよお!
ジュリア:
ほほう? そういえばゲーム画面なのに、ワケわかんない文字がビッシリ……。
あ、もしかしてこれが例の、"ナガマツールDX"ってヤツかな?
フクスケ:
ナガマツー……? そんな名前だったかな?
とりあえず、ナガマツさんが作ってくれたツールには違いないけど。
ストーリーモードのスタート前とか、レース中とかに、キャラ同士が会話する演出があるでしょう?
ボクはこのツールを使って、クルマの走行部分とカメラの調整をやってるんですよ。
ジュリア:
ふ〜ん……じゃあ、一応、仕事はしてるんですねー。
それにしても、シロートの私が言うのも何だけど、
クルマの動きがぎこちない気がするなー??
フクスケ:
う……鋭いっすね……。
『湾岸マキシシリーズ』って、
ハンドルでクルマを操作するように作ってあるから、
家庭用のゲームコントローラーの十字キーだと、どうにも滑らかに動かないんですよ?。(汗
あと、クルマを滑らかに加速させるのもちょっと難しいんです。
アクセルペダルが無いから、微妙な加速はコントローラーのボタンをゆっくり押さないといけないんです。
フツーにボタンを押すだけだと、いきなりアクセル全開になっちゃうから……。
ジュリア:
あ、ホントだ。
そうかそうか。
確かにちょっと、手間取るかも。
フクスケ:
他にも苦労はあるんですよー。
クルマ1台だけ走るシーンばかりじゃないですから、2台、時には3台同時に走るシーンがあるでしょう?
そういう時は、まず1台走らせて、その後で別のクルマを動かす事になります。
なので、最初から計画立てて1台目を走らせないと、バトルしているシーンになりづらいんですよ〜。
全力で走るアキオのZを必死で追いかけて、イキオイ余ってB.B.がZに突っ込む……なんて事もありました。
フクスケ:
まあ楽しい部分もあるんですけどね。
原作にあったキャラ同士の掛け合いを、ゲームの画面で見せるわけだから、
「どうやったら、原作で描かれていた緊迫した雰囲気が演出できるかな〜」
って考えたりするんですよ。
このツールだと、カメラワークも比較的自由に設定できるから、仕事とは言え楽しい部分も多いっすね。
どのアングルでクルマを映したらカッコ良く、迫力が増して見えるのか、
なんて考えながらカメラを動かすと、時間を忘れちゃいます。
ジュリア:
へ〜。
プレイヤーを楽しませるように色々と工夫してるって事ですか〜。
何だかちょっと興味が湧いてきちゃいましたっ!
ちょっと私にやらせてくださいよっ!
ていっ!
あっ!?
『押忍!
この俺ナガマツが用意したスーパーエクセレントな"ナガマツールDX"は、
男のロマンである"自爆ボタン"が付いてるんだゼ! 押忍!
コントローラーの人差し指ボタンがそれだ!!
ワンガンの秘密データが盗まれたりしないように、
一瞬にしてデータを全部吹き飛ばすから安心なんだゼ!! 押忍!
おっと、言い忘れていたがこの俺ナガマツはついこの間、
横羽線でウチダディと熱いバトルを繰り広げたんだ!
さすがにウチダディのランエボは速かったが、この俺ナガマツのFDも(以下略)』
フクスケ:
……
……ジュリアさん、今、もしかして……?
ジュリア:
……人差し指のボタンを押しちゃいましたぁ〜。
じゃ、私、他の仕事もあるんで帰りまっす!!!
アディ押ッ忍!!
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ちなみにこの、"自爆ボタン"ならぬ「リセットボタン」は実在します。
あ、データが全部吹き飛ぶって事はありませんのでご安心を。
(じゃあ何がどうなるのか? それはナイショだゼ! 押忍!)